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判例(裁判例)紹介 2014年11月アーカイブ

親子関係不存在確認請求事件(H26.7.17)

(事案の概要)
 AはYと婚姻関係にあった ものの,Bと交際を始めて性的関係を持つようになったが,その間もYとAは同居を続け,夫婦の実態が失われることはなかった。Aは妊娠したが,その子がBとの間の子であると思っていたため,妊娠したことをYに言わず,病院でXを出産した。Yは入院中のAを探し出し、Aに対してXが誰の子であるかを尋ねたところ,Aは,「2,3回しか会ったことのない男の人」などと答えた。Yは,XをYとAの長女とする出生届を提出し,その後,Xを自らの子として監護養育した。その後YとAは,Xの親権者をAと定めて協議離婚をし,AとXは,現在,Bと共に生活している。Aは,Xの法定代理人として,親子関係不存在確認を求めて訴えを提起した。
 
(裁判所の判断)
 裁判所は,まず,民法722条により嫡出の推定を受ける子につき,その嫡出であることを否認するためには,夫からの嫡出否認の訴えによるべきものとし,かつ,同訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは,身分関係の法的安定を保持する上から合理性を有するとした。そして,夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから,上記の事情が存在するからといって,同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当であるとした。
 もっとも,民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,上記子は実質的には同条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから,同法774条以下の規定にかかわらず,親子関係不存在確認の訴えをもって夫と上記子との間の父子関係の存否を争うことができると解するのが相当であるが,本件においては,AがXを懐胎した時期に上記のような事情があったとは認められず,他に本件訴えの適法性を肯定すべき事情も認められないことから,本件訴えは不適法なものであるといわざるを得ないとした。 

遺言の効力に関する判例(H26.5.21)

(事案の概要)
本件は,被相続人A(大正14年生,平成23年死亡)が夫のBが死亡した後である平成21年9月5日(当時84歳)にした「Aの全ての財産を長男Y1に相続させる」とする自筆遺言証書2通に係る各遺言について,Aの長女であるXが,長男であるY1及び同人の長男であり平成22年5月届出によりAの養子となったY2に対し,本件各遺言時のAには遺言意思能力がなかったなどと主張して,本件各遺言の無効確認を求めた事案である。
 原判決が本件各遺言時におけるAの遺言意思無能力を認め,Xの請求を認容したところ,これを不服としたYらが控訴した。
 
(裁判所の判断)
 本件の争点は,Aが本件各遺言書作成時に遺言意思無能力者であったか否かである。
 裁判所は,本件各遺言書作成前後のAの精神状態及び日常生活の状況に係る詳細な事実認定をした上,この認定判断に反する甲診療所作成の弁護士法23条の2所定の照会に対する回答書の所見を排斥し,上記成年後見申立事件で提出された甲診療所の内科医師作成の平成22年5月26日付け診断書の証明力を限定して解し,本件各遺言当時にAが重度のアルツハイマー型認知症により事理弁識能力を欠いて心神喪失の常況にあたったと認定することは困難であるといわざるを得ないとした。そして,本件各遺言書の形式及び内容から見ても,Aが決意した本件各遺言の内容をその意のままに記載して封入したと見られ,作為性のない自然な状態にあること,本件各遺言をする意思を決定したと推測することができる経緯及び動機が認められることし,他に本件各遺言書作成時にAが遺言意思無能力者であったことを認めるに足りる的確な証拠はないとして,Xの遺言意思無能力の主張を排斥し,原判決を取り消してXの請求を棄却した。 

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