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損害賠償請求事件(東京高裁平成26年3月13日)

(事案の概要)
 Xは,銀行の店舗出入り口に敷設された足拭きマットに足を乗せたところ,これが右足を乗せたまま中央部に向かって横ずれしたため,バランスを崩して転倒した。Xは,これにより頸部捻挫等の傷害を負い,左半身の感覚鈍麻その他の後遺障害が残ったと主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,上記銀行の権利義務を承継したYに対し,損害賠償金の支払を求めた。
 原判決は,Xの請求を棄却したので,Xはこれを不服として控訴をした。
 
裁判所の判断)
 裁判所は,以下のとおり,銀行の注意義務違反を肯定したうえ,Xに4割の過失があるとして過失相殺を認めた。
 本件事故当時,本件マットは,その裏面がやや湿潤し,かつ,波打った状態にあったことから,マット裏面全体と本件床面との間には部分的に滑り抵抗係数の低い部分が存在し,マット表面にその斜め上部方向から力が加わることにより本件床面上を滑りやすい状態にあったところ,Xがその右足を本件マット表面に乗せたことによって斜め上部方向からの力が働き,その一部(本件マットの本件出入口に向かって左の部分)が本件床面との摩擦抵抗を失って横に移動し,そのためXが身体のバランスを崩して転倒したと認めることができる。
 ところで,本件支店は繁華街にあり,店舗内にATMコーナーが設置されていたのであるから,これを利用するために,老若男女を問わず,様々な顧客が多数往来しており,その都度本件出入口に敷設されていた足拭きマットの上を歩行していたことは推認するに難くない。そして,人が歩行するに際しては,足元の着地面が上から働く力を支え,滑りなどにより体勢のバランスを崩すことがないようにしなければ,転倒による身体損傷等を起こしかねないから,その安全確保のためには着地面の滑り防止が必要とされる。そうすると,本件出入口に敷設されていた本件マットについても,顧客がその上を通常の態様で歩行するに当たって加えられる力により本件床面上を滑ることがないように整備しておくことが求められるというべきである。しかるに,本件事故当時の状態は前判示のとおりであったから,Yには,Xが歩行していた本件出入口の安全確保に関し,本件マットが本件床面上を滑りやすい状態で敷設されていた点で注意義務違反がある。
 もっとも,Yは,本件マットは定期的に交換されており,本件床面及びその周囲も業者により適切に清掃されていたから,Yに注意義務違反はない旨主張する。しかしながら,足拭きマット及び本件支店床面の管理を業者に任せきりにし,本件マットの裏面が前判示のような状態にあることを見過ごしていたことからすれば,Yの注意義務違反は否定し難い。
 ・・・本件事故が発生したことについてはYに過失があると認められるが,他方,本件マットは本件事故の6日前からほぼ同様の状態で敷設されており,本件事故発生までに多数の来店客がその上を歩行していたにもかかわらず,本件事故発生前に何らかの危険を感じ,被控訴人関係者に通報した者はいない。そして,人が多様な状態の接地面に足を乗せて歩行するに際しては,その場の状況を確認しながら,体勢を維持して転倒しないように注意を用いるのが通常であり,同じ場所を歩行したからといって全ての人に同じ結果が生ずるものではなく,転倒並びにそれによる負傷の有無及び程度は,歩行に際しての注意の働かせ方及びこれに基づく身体反応により異なってくるのは社会的に経験するところである。しかるところ,Xは,本件事故時において57歳の女性であり,健康状態に大きな問題はなく,本件事故前にはジョギングもし,自分では運動神経はいいほうだと思っていたと述べているのであって,これを前提とすれば,Xが本件出入口に向かって歩行する際,より注意深く接地面に足を運び,かつ,身軽な状態であったとすれば,右足を乗せた本件マットがその中央部に向かってずれて盛り上がることによって転倒したか否か,転倒したとしても,これによる負傷の有無及び程度については違った結果になったとも考えられるのであって,特に,Xが転倒したことについては,左肩及び両手に多数の荷物を抱え,運動の自由を制約された不安定な状態で歩行していたことが多分に影響していたと認められる。このようなXの落ち度を勘案すると,本件事故発生については,Xに4割の過失相殺をするのが相当である。

 

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