HOME > 判例(裁判例)紹介

判例(裁判例)紹介

従業員地位確認等請求事件(前橋地裁平成22年11月10日)

[事案の概要]
 被告Y鉄道会社に勤務していた原告Xは,平成21年6月に駅の事務室内において,事務室のトイレから出てきた女子高生(当時17歳)に対し,接吻するなどの強制わいせつ行為を行ったとして逮捕された。同年7月,被告Yは,上記強制わいせつ行為が就業規則所定の「法令,会社の諸規程等に違反した場合」に該当するとして,原告Xを懲戒解雇した。
 そこで,原告Xは,①本件解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないから,その権利を濫用したものであって無効である,②仮に,本件解雇が無効でないとしても,退職金には,賃金後払的な部分があるから,退職手当規定に従って退職金全額を不支給とするのは,労働基準法24条に反し許されないなどと主張して,被告Yに対し,主位的に,労働契約上の地位を有することの確認並びに給与及び賞与の支払,予備的に,1397万円余の退職手当の支払を求めた。
 
裁判所の判断]
 裁判所は,(1)原告の行為は就業規則の懲戒事由に該当し,本件解雇には客観的に合理的な理由があり,社会通念上も相当性を欠くとは認められないとして,主位的請求を棄却したが,(2)退職手当については,原告には懲戒免職事由があることを考慮しても,永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があって,企業秩序維持等のために賃金後払的性格を有する退職手当の全額を不支給とする合理的必要性があると認めることはできず,一定の割合の支給を認めるべきであるとし,本件強制わいせつ行為の態様及び原告のそれまでの勤務状況等の諸事情を総合考慮のうえ,3割に当たる419万円余の退職手当の支給を認めた。
  

損害賠償請求事件(東京高裁平成26年3月13日)

(事案の概要)
 Xは,銀行の店舗出入り口に敷設された足拭きマットに足を乗せたところ,これが右足を乗せたまま中央部に向かって横ずれしたため,バランスを崩して転倒した。Xは,これにより頸部捻挫等の傷害を負い,左半身の感覚鈍麻その他の後遺障害が残ったと主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,上記銀行の権利義務を承継したYに対し,損害賠償金の支払を求めた。
 原判決は,Xの請求を棄却したので,Xはこれを不服として控訴をした。
 
裁判所の判断)
 裁判所は,以下のとおり,銀行の注意義務違反を肯定したうえ,Xに4割の過失があるとして過失相殺を認めた。
 本件事故当時,本件マットは,その裏面がやや湿潤し,かつ,波打った状態にあったことから,マット裏面全体と本件床面との間には部分的に滑り抵抗係数の低い部分が存在し,マット表面にその斜め上部方向から力が加わることにより本件床面上を滑りやすい状態にあったところ,Xがその右足を本件マット表面に乗せたことによって斜め上部方向からの力が働き,その一部(本件マットの本件出入口に向かって左の部分)が本件床面との摩擦抵抗を失って横に移動し,そのためXが身体のバランスを崩して転倒したと認めることができる。
 ところで,本件支店は繁華街にあり,店舗内にATMコーナーが設置されていたのであるから,これを利用するために,老若男女を問わず,様々な顧客が多数往来しており,その都度本件出入口に敷設されていた足拭きマットの上を歩行していたことは推認するに難くない。そして,人が歩行するに際しては,足元の着地面が上から働く力を支え,滑りなどにより体勢のバランスを崩すことがないようにしなければ,転倒による身体損傷等を起こしかねないから,その安全確保のためには着地面の滑り防止が必要とされる。そうすると,本件出入口に敷設されていた本件マットについても,顧客がその上を通常の態様で歩行するに当たって加えられる力により本件床面上を滑ることがないように整備しておくことが求められるというべきである。しかるに,本件事故当時の状態は前判示のとおりであったから,Yには,Xが歩行していた本件出入口の安全確保に関し,本件マットが本件床面上を滑りやすい状態で敷設されていた点で注意義務違反がある。
 もっとも,Yは,本件マットは定期的に交換されており,本件床面及びその周囲も業者により適切に清掃されていたから,Yに注意義務違反はない旨主張する。しかしながら,足拭きマット及び本件支店床面の管理を業者に任せきりにし,本件マットの裏面が前判示のような状態にあることを見過ごしていたことからすれば,Yの注意義務違反は否定し難い。
 ・・・本件事故が発生したことについてはYに過失があると認められるが,他方,本件マットは本件事故の6日前からほぼ同様の状態で敷設されており,本件事故発生までに多数の来店客がその上を歩行していたにもかかわらず,本件事故発生前に何らかの危険を感じ,被控訴人関係者に通報した者はいない。そして,人が多様な状態の接地面に足を乗せて歩行するに際しては,その場の状況を確認しながら,体勢を維持して転倒しないように注意を用いるのが通常であり,同じ場所を歩行したからといって全ての人に同じ結果が生ずるものではなく,転倒並びにそれによる負傷の有無及び程度は,歩行に際しての注意の働かせ方及びこれに基づく身体反応により異なってくるのは社会的に経験するところである。しかるところ,Xは,本件事故時において57歳の女性であり,健康状態に大きな問題はなく,本件事故前にはジョギングもし,自分では運動神経はいいほうだと思っていたと述べているのであって,これを前提とすれば,Xが本件出入口に向かって歩行する際,より注意深く接地面に足を運び,かつ,身軽な状態であったとすれば,右足を乗せた本件マットがその中央部に向かってずれて盛り上がることによって転倒したか否か,転倒したとしても,これによる負傷の有無及び程度については違った結果になったとも考えられるのであって,特に,Xが転倒したことについては,左肩及び両手に多数の荷物を抱え,運動の自由を制約された不安定な状態で歩行していたことが多分に影響していたと認められる。このようなXの落ち度を勘案すると,本件事故発生については,Xに4割の過失相殺をするのが相当である。

 

親子関係不存在確認請求事件(H26.7.17)

(事案の概要)
 AはYと婚姻関係にあった ものの,Bと交際を始めて性的関係を持つようになったが,その間もYとAは同居を続け,夫婦の実態が失われることはなかった。Aは妊娠したが,その子がBとの間の子であると思っていたため,妊娠したことをYに言わず,病院でXを出産した。Yは入院中のAを探し出し、Aに対してXが誰の子であるかを尋ねたところ,Aは,「2,3回しか会ったことのない男の人」などと答えた。Yは,XをYとAの長女とする出生届を提出し,その後,Xを自らの子として監護養育した。その後YとAは,Xの親権者をAと定めて協議離婚をし,AとXは,現在,Bと共に生活している。Aは,Xの法定代理人として,親子関係不存在確認を求めて訴えを提起した。
 
裁判所の判断)
 裁判所は,まず,民法722条により嫡出の推定を受ける子につき,その嫡出であることを否認するためには,夫からの嫡出否認の訴えによるべきものとし,かつ,同訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは,身分関係の法的安定を保持する上から合理性を有するとした。そして,夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから,上記の事情が存在するからといって,同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当であるとした。
 もっとも,民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,上記子は実質的には同条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから,同法774条以下の規定にかかわらず,親子関係不存在確認の訴えをもって夫と上記子との間の父子関係の存否を争うことができると解するのが相当であるが,本件においては,AがXを懐胎した時期に上記のような事情があったとは認められず,他に本件訴えの適法性を肯定すべき事情も認められないことから,本件訴えは不適法なものであるといわざるを得ないとした。 

遺言の効力に関する判例(H26.5.21)

(事案の概要)
本件は,被相続人A(大正14年生,平成23年死亡)が夫のBが死亡した後である平成21年9月5日(当時84歳)にした「Aの全ての財産を長男Y1に相続させる」とする自筆遺言証書2通に係る各遺言について,Aの長女であるXが,長男であるY1及び同人の長男であり平成22年5月届出によりAの養子となったY2に対し,本件各遺言時のAには遺言意思能力がなかったなどと主張して,本件各遺言の無効確認を求めた事案である。
 原判決が本件各遺言時におけるAの遺言意思無能力を認め,Xの請求を認容したところ,これを不服としたYらが控訴した。
 
裁判所の判断)
 本件の争点は,Aが本件各遺言書作成時に遺言意思無能力者であったか否かである。
 裁判所は,本件各遺言書作成前後のAの精神状態及び日常生活の状況に係る詳細な事実認定をした上,この認定判断に反する甲診療所作成の弁護士法23条の2所定の照会に対する回答書の所見を排斥し,上記成年後見申立事件で提出された甲診療所の内科医師作成の平成22年5月26日付け診断書の証明力を限定して解し,本件各遺言当時にAが重度のアルツハイマー型認知症により事理弁識能力を欠いて心神喪失の常況にあたったと認定することは困難であるといわざるを得ないとした。そして,本件各遺言書の形式及び内容から見ても,Aが決意した本件各遺言の内容をその意のままに記載して封入したと見られ,作為性のない自然な状態にあること,本件各遺言をする意思を決定したと推測することができる経緯及び動機が認められることし,他に本件各遺言書作成時にAが遺言意思無能力者であったことを認めるに足りる的確な証拠はないとして,Xの遺言意思無能力の主張を排斥し,原判決を取り消してXの請求を棄却した。 

養子縁組が無効とされた事例(H22.4.15判決)

(事案の概要)
 本件は,亡Aの兄であるXが,亡Aは入院中にYと知り合い2か月ほどAの家で同居した後に同人との間で養子縁組の届出をしているが,当時,亡Aには意思能力がなく,また,亡AとYとの間の養子縁組には合理的動機がないなどとして,養子縁組の無効確認を求めた。原審は本件養子縁組を無効としたため,Yが控訴した。
 
裁判所の判断)
 裁判所は,一般論として,養子縁組における縁組意思は,社会通念に照らして真に養親子関係を生じさせようとする意思によるものであることが必要というべきであり,こうした意思を含まず,単に何らかの方便として養子縁組の形式を利用したに過ぎない場合は,縁組意思を欠くものとして,その養子縁組は無効というべきである。もとより,養親子関係の社会的な在り方は多様であるから,上記の養親子関係を生じさせようとする意思の内容を一義的に言うことは困難であるが,少なくとも親子としての精神的なつながりを形成し,そこから本来生じる法律的または社会的な効果の全部または一部を目的とするものであることが必要であると解するのが相当であるとした。
 そして,本件について,AはYと入院中に知り合い,Aの家でYと同居するようになってからわずか2か月ほど後に本件養子縁組の届出がなされたこと,YとAがA方で同居したのは,通算4か月にも満たないこと,その間,Yが血縁関係もないAの看護や日常の世話に意を配ったような経過はうかがわれず,Aが入院した際は,保健所の職員によって入院させられるほどの重篤な状態に陥っていたこと,また,Aの葬儀の際,控訴人は香典を受け取ったにもかかわらず,香典返しもしておらず,その一方で,Yは,その間に,Aの資産を基にして,高級外車を乗り換えるなどの散財行為とも見られる行為に及んでいることなど,XがAの資産に依存した消費行動を示しており,ほかには,Yが,養親子という社会一般の身分関係を意識した行動を示した形跡は何らうかがうことができない。そして,XとAの間で,親族関係の形成を前提とした会話がなされたような経緯はうかがわれず,X自身,自分とAが本件養子縁組をする目的や理由,趣旨を理解しているものとは認められない。
 他方,Aは本件養子縁組に近接した時点において,前頭側頭葉型認知症の疑いを持たれており,躁状態による脱抑制,人格変化が認められ,病識の欠如から問題行動も起こすなどしており,合理的な判断能力が相当に減退した状態にあったと認められること,AはXがGとの交際に反対したり,医療保護入院をさせたり,後見開始申立てをしたことなどについて反感を示しており,こうしたXに対する思慮を欠いた反発感情から,同人への相続を阻止する目的で本件養子縁組に及んだものとうかがわれるところ,それ以上には,Yとの間に養親子という親族関係を形成する意思があったことをうかがわせる経緯は一切認められないとした。
 そうすると,本件養子縁組は,Aが,Xとの養親子関係という真の身分関係を形成する意思とは異なり,Yへの相続を阻止するための方便として,Xとの養子縁組という形式を利用したにすぎないものと認められるから,養子縁組意思を欠くものというべきであって,無効といわなければならないとした。
  

産業医の不法行為を認めた事例(大阪地判H23.10.25)

(事案の概要)
 本件は,自律神経失調症により休職中であったXが,勤務先の産業医であるYとの面談時に,詰問口調で「それは病気やない,それは甘えなんや。」,「薬を飲まずに頑張れ。」,「こんな状態が続いとったら生きとってもおもんないやろが。」などと非難されるなどしたため,病状が悪化し,このことによって復職時期が遅れるとともに,精神的苦痛を被ったとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき,逸失利益の一部の賠償及び慰謝料の支払等を求めた事案である。
 
裁判所の判断)
 Yは,産業医として勤務している勤務先から,自律神経失調症により休職中の職員との面談を依頼されたのであるから,面談に際し,主治医と同等の注意義務までは負わないものの,産業医として合理的に期待される一般的知見を踏まえて,面談相手であるXの病状の概略を把握し,面談においてその病状を悪化させるような言動を差し控えるべき注意義務を負っていたものといえるとした上,産業医は,大局的な見地から労働衛生管理を行う統括管理に尽きるものではなく,メンタルヘルスケア,職場復帰の支援,健康相談などを通じて,個別の労働者の健康管理を行うことをも職務としており,産業医になるための科学研修・実習にも,独立の科目としてメンタルヘルスが掲げられていることに照らせば,産業医には,メンタルヘルスにつき一通りの医学的知識を有することが合理的に期待されるものというべきであるとした。
 そして,たしかに自律神経失調症という診断名自体,交感神経と副交感神経のバランスが崩れたことによる心身の不調を総称するものであって,特定の疾患を指すものではないが,一般に,うつ病や,ストレスによる適応障害などとの関連性は容易に想起できるのであるから,自律神経失調症の患者に面談する産業医としては,安易な激励や,圧迫的な言動,患者を突き放して自助努力を促すような言動により,患者の病状が悪化する危険性が高いことを知り,そのような言動を避けることが合理的に期待されるものと認められるとし,Xとの面談におけるYの言動は,上記の注意義務に反するとした。
 さらに,本件面談とXの病状悪化との因果関係については,Xの病状悪化が本件面談におけるYの言動により生じたものであるとして因果関係を認め,Xの復職が遅れたことによる減収は30万円を下らないものであるとし,Xの精神的苦痛を金銭で慰謝するには30万円が相当であるとした。 

交通事故の後遺障害(H22.12.14判決)

(はじめに)
 交通事故では,症状固定となった後,後遺障害が残存する場合は,後遺障害に基づく損害を相手方に請求します。
 今回は,後遺障害の中で,外貌醜状痕に関する後遺障害の損害について判示した裁判例(秋田地判平成22年12月14日(平成21年(ワ)第354号))をご紹介します。
 
(事案の概要)
 本件は交通事故に基づく損害賠償請求の事案である。交通事故の態様は,原告X1が運転し,妻の原告X2が同乗する普通乗用自動車の走行車線に被告Y1が運転し,被告Y2が保有する普通乗用自動車がセンターラインを越えて進入したために両車が衝突し,原告らが受傷したというものである。
 原告らは,被告Y1に対しては不法行為に基づき,被告Y2に対しては自賠法3条に基づき,損害賠償金の連帯支払を求めた。
 
裁判所の判断)
 本件の争点は,損害額である。
 特に,原告は,労災認定における外貌醜状障害について,男子を14級,女子を12級とする後遺障害別等級表の基準に従った認定は不合理な差別的取扱いであり,平等原則に反するから,原告(男子,52歳,銀行課長職)の外貌醜状障害については後遺障害別等級表12級14号該当として評価すべきであると主張したため,その主張の当否が争われた。
 裁判所は,労働能力の低下の程度に関して,後遺障害別等級表の等級毎の労働能力喪失率はあくまで参考にすぎず,被害者の職業,年齢,性別,後遺症の部位,程度,事故前後の稼働状況等を総合的に判断して具体的な事案に応じて評価されるのであり,後遺障害別等級表上の等級評価から演繹的に導き出されるものではないとした上で,原告X1の職業・職種(銀行課長職,債権管理),年齢(症状固定時52歳),醜状の部位・形状・程度に照らし,原告Aの外貌醜状障害が労働能力に与える影響は差程とは思われず,本件の後遺障害全体による原告X1の労働能力の低下の程度は,原告X1の上記主張の肯否にかかわらず,後遺障害別等級表12級相当の14%に留まると認めるのが相当であるとした。  

離婚後の監護費用の請求(H23.3.18判決)

(はじめに)
 今回は,離婚後の子どもの監護費用(養育費)の請求が,権利濫用にあたり認められないとされた判例(最判平成23年3月18日(平成21年(受)第332号)離婚等請求本訴,同反訴事件)を紹介します。
 
(事案の概要)
 本件は,X(夫)が,Y(妻)に対し,離婚等を請求するなどし,Yが,反訴として,Xに対し,離婚等を請求するとともに,長男,二男及び三男の養育費として,判決確定の日から,長男,二男及び三男がそれぞれ成年に達する日の属する月まで,一人当たり月額20万円の支払いを求める旨の監護費用の分担の申立て等をした事案である。
 Xは,監護費用について,二男との間には自然的血縁関係がないことから,監護費用を分担する義務はないと主張した。なお,Xは,本件提訴前,二男との間の親子関係不存在確認の訴え等を提起したが,同訴えについては却下する判決が言い渡され,同判決は確定している。
 原審は,Xと二男との間に法律上の親子関係がある以上,Xはその監護費用を分担する義務を負うと判断した。
 
(最高裁判所の判断)
 最高裁判所は,YがXに対し離婚後の二男の監護費用の分担を求めることは,権利の濫用に当たるとした。
 理由は以下のとおり。YはXと婚姻関係にあったにもかかわらず,X以外の男性と性的関係を持ち,その結果,次男を出産したが,それから約2か月以内に二男とXとの間に自然的血縁関係がないことを知ったにもかかわらず,これをXに告げず,Xがこれを知ったのは二男の出産の7年後のことであったため,Xは,二男につき,民法777条所定の出訴期間内に嫡出否認の訴えを提起することができず,そのことを知った後に提起した親子関係不存在確認の訴えは却下され,もはやXが二男との親子関係を否定する法的手段は残されていない。他方,Xはこれまでに二男の養育・監護のための費用を十分に負担してきており,Xが二男との親子関係を否定することができなくなった上記の経緯に照らせば,Xに離婚後も二男の監護費用を分担させることは,過大な負担を課すものである。YはXとの離婚に伴い,相当多額の財産分与を受けることになるのであり,離婚後の二男の監護費用を専らYに分担させることができないような事情はうかがわれないから,子の福祉にも反しない。
 以上の事情を総合考慮すると,YがXに対し離婚後の二男の監護費用の分担を求めることは,監護費用の分担につき判断するに当たっては子の福祉に十分配慮すべきであることを考慮してもなお,権利の濫用に当たるというべきである。 

葬儀費用の請求(H24.3.29判決)

(はじめに)
 相続や遺言の案件,成年後見に関する案件などにおいて,葬儀費用を誰が負担すべきかということが問題となることがあります。
 そこで,今回は,葬儀費用の負担に関する裁判例(名古屋高判平成24年3月29日(平成23年(ネ)第968号)貸金返還等請求控訴事)についてご説明します。
 
(事案の概要)
 亡Aは,平成21年12月に死亡し,その相続人は,長男Y1及び二男Y2であった。Xは,亡Eの兄弟であったところ,喪主として亡Aの葬儀等を主宰し,通夜,葬儀,火葬及び初七日の法要を行った。
 そこで,Xは,葬儀費用は相続財産又は相続人が負担すべきであるなどと主張して,Yらに対して,①Xが支出した葬儀費用について不当利得返還請求をした。
 その他にも,Xは,亡Aが締結していた賃貸借契約の解約をし,原状回復費用として10万1588円を支出したとして,Yらに対し,②事務管理に基づく費用償還請求権に基づき,それぞれ5万円余の支払を,③Xが,亡Aの債務を立替払いしたと主張して,Yらに対し,それぞれ8000円余の支払を,④Xが,亡Aに対し,2回にわたって計100万円を貸し付けたとして,金銭消費貸借契約に基づき,Yらに対し,それぞれ50万円の支払を求めた。
 原審は,②③を認め,その余の請求を棄却したため,Xは敗訴部分を不服として控訴した。
 
裁判所の判断)
 本件においては,特に,Xが亡Aの葬儀費用を支出したとして他の相続人らに返還請求を求めた点に対する判断を取り上げたい。
 裁判所は,一般論として,葬儀費用とは,死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用と解されるが,亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず,かつ,亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては,追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者,すなわち,自己の責任と計算において,同儀式を準備し,手配等して挙行した者が負担し,埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担するものと解するのが相当であるとした。
 そして,本件については,亡Aは予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず,かつ,亡Aの相続人であるYらや関係者であるXらの間で,葬儀費用の負担についての合意がない状況において,Xが,亡Aの追悼儀式を手配し,その規模を決め,喪主も務めたのであるから,Xが亡Aの追悼儀式の主宰者であったと認められ,Xが亡Aの追悼儀式の費用を負担すべきものというべきである。他方,亡Aの遺骸,遺骨の埋葬等の行為に要する費用については,亡Aの祭祀を主宰すべき者が負担すべきものであるが,亡Aの祭祀を主宰すべき者については,亡Aにおいてこれを指定していた事実は認められないから,民法897条1項本文により,慣習に従って定められるべきものであるが,亡AにはYらという二人の子があるものの,20年以上も親子の交渉が途絶えていた状況である一方,兄弟であるXらとの間に比較的密な交流があった事情が認められることも考慮すると,亡Aの祭祀を主宰すべき者を亡Aの子であるYら又はそのいずれかとすることが慣習上明白であると断ずることはできず,結局,本件における証拠をもってしては,亡Aの祭祀を主宰すべき者を誰にすべきかに関する慣習は明らかでないというほかない。そうすると,家庭裁判所で,同条2項に従って,亡Aの祭祀承継者が定められない限り,亡Aの遺骸等の埋葬等の行為に要する費用を負担すべき者が定まらないといわざるを得ない。
 したがって,XがYらに対し,葬儀費用を請求する法的根拠はないというべきであるとした。  

「相続させる」遺言の効力(H23.2.22判決)

(はじめに)
 相続・遺言の案件では,「相続させる」旨が記載された遺言の効力がよく問題となります。そこで,今回は,これに関する判例(最判平成23年2月22日(平成21年(受)第1260号)土地建物共有持分権確認請求事件)について説明します。
 
(事案の概要)
  被相続人Aは,平成5年2月17日,Aの所有に係る財産全部をAの子であるBに相続させる旨を記載した公正証書遺言書を作成した。Bは,その後,平成18年6月21日に死亡し,Aが同年9月23日に死亡した。Aの子であるXは,遺産の全部をAのもう一人の子であるBに相続させる旨のAの遺言は,BがAより先に死亡したことにより効力を生ぜず,XがAの遺産につき法定相続分に相当する持分を取得したと主張して,Bの子であるYらに対し,Aが持分を有していた不動産につきXが上記法定相続人に相当する持分等を有することの確認を求めた。
 原審は,本件遺言は,BがAより先に死亡したことによって効力を生じないこととなったというべきであるとして,Xの請求を認容したが,これを不服としてYが上告した。
 
(最高裁判所の判断)
 本件の争点は,「相続させる」旨の遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合における当該遺言の効力である。
 最高裁場所は,まず,「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情および遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当であるとした。
 そのうえで,本件においては,BはAの死亡以前に死亡し,本件遺言書には,Aの遺産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項のわずか2か条しかなく,BがAの死亡以前に死亡した場合にBが承継すべきであった遺産をB以外の者に承継させる意思を推知させる条項はない上,本件遺言作成時,Aが上記の場合に遺産を承継する者についての考慮をしていなかったことから,上記特段の事情も認められず,本件遺言はその効力を生じないとした。 

12

アーカイブ

このページのトップへ