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賃貸借契約に関するルールの見直し(2020.4)

【2020年4月1日から賃貸借契約に関する民法のルールが変わります。】

2017 年5月に成立した「民法の一部を改正する法律」が2020 年4月1日から施行されます。
この改正では,契約に関するルールを中心に,民法の債権関係の分野について全般的な見直しがされています。
賃貸借契約に関するルールについてそのポイントを説明致します。

賃貸借とは,当事者の一方(賃貸人)がある物を相手方(賃借人)に使用・収益させ,借主がその賃料を支払うことを約束する契約です。
例えば,アパートの一室や自動車などを賃料を支払って借りる契約が賃貸借契約に当たります。



【賃貸借に関する改正のポイント】
今回の民法改正では,賃貸借契約に関連するものとして,次のような点について見直しがされています。

◉  賃貸借継続中のルール
 ◦ 賃借物の修繕に関する要件の見直し
 ◦ 賃貸不動産が譲渡された場合のルールの明確化


◉  賃貸借終了時のルール
 ◦ 賃借人の原状回復義務及び収去義務等の明確化
 ◦ 敷金に関するルールの明確化


◉  賃貸借契約から生ずる債務の保証に関するルール




◉  賃貸借継続中のルール

賃借物の修繕に関する要件の見直し
★事例1-1★
Aさんは,Bさんから家を借りて住んでいる。備付けのエアコンが故障したため,Aさんは,Bさんに対してたびたび修理を依頼しているが,なかなか修理してくれない。

★事例1-2★
Aさんは,Bさんから家を借りて住んでいるが,台風で屋根が損傷し,雨漏りがするようになった。次の台風が接近しており,早く修理したい。

借りている建物が雨漏りするなど,賃借物の修繕が必要な場合でも,賃借物はあくまで賃貸人のものですから,賃借人が勝手に手を加えることはできません。
しかし,実際に賃借物を使っているのは賃借人ですから,賃貸人が修繕してくれない場合でも賃借人は一切自分で修繕することができないとすると,不便です。
改正前の民法には,どのような場合に賃借人が自分で修繕をすることができるのかを定めた規定はありませんでした。

 改正後の民法では,
① 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知したか,又は賃貸人がその旨を知ったのに,賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき
又は
② 急迫の事情があるときには,賃借人が目的物を修繕することができることとされました。
これにより,上記①や②の場合には,賃借人が目的物を修繕したとしても, 賃貸人から責任を追及されることはないことが明確になりました。

賃貸不動産が譲渡された場合のルールの明確化
★事例2★
Bさんは,Aさんに対して自分が所有する建物を貸していたが,その期間中に,Cさんにその建物を売却した。
建物の新しい所有者になったCさんは,Aさんに賃料を請求したが,Aさんは賃料をBさんとCさんのどちらに支払えばいいのかわからないといって,支払ってくれない。

建物の賃貸借契約が続いている間に建物の所有者が代わった場合には,その後は誰が賃貸人になるのか,新しい所有者は賃料を請求することができるのかなどが問題になります。
これらの点について,改正前の民法には規定が設けられていませんでした。

改正後の民法では,賃貸借の対抗要件を備えていた場合に,賃借物である不動産が譲渡されたときは,賃貸人としての地位は,原則として不動産の譲受人(新たな所有者)に移転するという規定を設けました。
また,不動産の譲受人(新たな所有者)が,賃借人に対して賃料を請求するためには, 貸借物である不動産の所有権移転登記が必要である旨の規定を設けました。
上記の事例では,Cさんが賃借物である建物の所有権移転登記を備えれば, Aさんに対して賃料を請求することができ,AさんはCさんに賃料を支払わなければなりません。
Cさんが登記を備えていない間は,A さんは引き続き B さんに賃料を支払うことができますし,賃料を供託することもできます。

◉  賃貸借終了時のルール

賃借人の原状回復義務及び収去義務等の明確化
★事例3★
Aさんは,Bさんから借りていた家を退去することになったが,Bさんから,日焼けしたクロスの張替費用を負担するように求められた。
Aさんとしては,クロスの張替費用まで負担することには納得できない。

賃貸借契約が終了した場合には,賃借人は,賃借物を原状(元の状態)に戻して賃貸人に返還しなければならないと解されています。
また,この原状回復義務の範囲について,一般に,通常損耗(賃借物の通常の使用収益によって生じた損耗)及び経年変化はその対象に含まれていないと解されています。
しかし,これらのルールは改正前の民法の文言上は明確ではありませんでした。

改正後の民法では,賃借人は,賃借物を受け取った後に生じた損傷について原状回復義務を負うこと,しかし,通常損耗や経年変化については原状回復義務を負わないことを明記しました。

●通常損耗・経年変化に当たる例
・家具の設置による床, カーペットのへこみ,設置跡
・テレビ,冷蔵庫等の後部壁面の 黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)
・地震で破損したガラス
・鍵の取替え(破損,鍵紛失の ない場合)

●通常損耗・経年変化に当たらない例
・引っ越し作業で生じたひっかきキズ
・日常の不適切な手入れもしくは 用法違反による設備等の毀損
・タバコのヤニ・臭い
・飼育ペットによる柱等のキズ・ 臭い

敷金に関するルールの明確化
★事例4★
Aさんは,Bさんから家を借りた際に「保証金」という名目で賃料債務等の担保として金銭を差し入れていた。
賃貸借契約が終了し,Aさんはこの家を退去したが,賃料の未払等はないのに,Bさんは差し入れた金銭を返還してくれない。

敷金とは,賃貸借に基づいて賃借人が負うことになる金銭債務(賃料債務など)を担保するため,賃借人が賃貸人に交付する金銭のことです。
建物等の賃貸借に当たっては敷金が授受されるのが一般的ですが,改正前の民法には,敷金の定義や敷金返還請求権の発生時期についての規定はありませんでした。

改正後の民法では,これまでの実務に従い,敷金を「いかなる名目によるかを問わず,賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で,賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義しました。
その上で,判例に従い,賃貸借契約が終了して賃借物が返還された時点で敷金返還債務が生じること,その額は受領した敷金の額からそれまでに生じた金銭債務の額を控除した残額であることなどのルールを明確化しています。

◉  賃貸借契約から生ずる債務の保証に関するルールの見直し

今回の法改正では,極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約は無効とするというルールが新たに設けられました。
※ 「根保証契約」とは,将来発生する不特定の債務について保証する契約をいいます。
例えば,不動産の賃借人の一切の債務の保証がこれに当たります。
根保証契約を締結して保証人となる際には,主債務の金額が分からないため,将来,保証人が想定外の債務を負うことになりかねません。

個人(会社等の法人以外の者)が保証人になる根保証契約については,保証人が支払の責任を負う金額の上限となる「極度額」を定めなければ,保証契約は無効となります。
この極度額は,「○○円」などと明瞭に定め,書面に記載しておかなければなりません。
また,個人が保証人になる根保証契約については,次の事情(元本確定事由)があったときは,その後に発生する主債務は保証の対象外となります。
①債権者が保証人の財産について強制執行や担保権の実行を申し立てたとき
②保証人が破産手続開始の決定を受けたとき
③主債務者又は保証人が死亡したとき


【経過措置】
改正法では,賃貸借に関するルールの見直しを含む改正事項について,どのような場合に改正後の新しい民法が適用され,どのような場合に改正前の民法が適用されるのかを明らかにするルール(このルールを「経過措置」といいます。)が定められています。
賃貸借や保証などの契約については,原則として,施行日より前に締結された契約については改正前の民法が適用され,施行日後に締結された契約については改正後の新しい民法が適用されます。


★事例5★
① 施行日前の2019年4月,賃貸期間を2年間として,アパートを借りた。これに合わせて,賃借人の親が,賃借人が賃貸借契約によって負う債務の保証人になった。
② 施行日後の2021年3月,賃貸期間満了により賃貸借契約が終了したが,敷金の返還をめぐってトラブルになった。
施行日より前に賃貸借契約と保証契約の双方が締結されているので,改正前の民法が適用されます。
敷金について新たに設けられた民法622条の2などの規定は,適用されません。
※ 施行日後に当事者が合意によって賃貸借契約や保証契約を更新したときは,当事者はその契約に新法が適用されることを予測していると考えられますから,施行日後に新たに契約が締結された場合と同様に,改正後の新しい民法が適用されます。 
他方で,施行日前に保証契約が更新後の債務も保証する趣旨でされ,保証について合意更新がされなかった場合には,施行日後も当該保証契約については改正前の民法が適用されます。

改正法については、法務省のホームページに説明がございますので、詳細については下記のページをご確認下さい。
法務省ホームページ http://www.moj.go.jp/
改正法の説明 http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_001070000.html

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